今回の「福島からの声」は、前回に引き続き、福島原発の放射能の被害によって南相馬の故郷を奪われた、渡部哲雄さんが出版された短歌集『つぶやき』(民報印刷)の中から、前回紹介しきれなかった「福島からの声」を伝える短歌を、福島県南相馬市在住の詩人、若松丈太郎さんのご協力も得て掲載させて頂きます。
東日本大震災から4年を経た今、テレビから流れてくる報道の内容を見ていると、社会全体がいつの間にか目先の経済の動向に目を奪われて、私たちにとって何よりも大切な居場所としての地球の未来を脅かすほどの深刻さを持つ、原発事故の問題への社会の関心が薄れ始めていることを感じ、強い危機感を覚えることもしばしばです。
連載させて頂く渡邊哲雄さんの短歌による「福島からの声」は、人間社会に対しての地球からの声であると言っても過言ではないように思います。
今だからこそ、その声に向き合って、これからの私たちの居場所づくりへの一歩を考えていかなくてはならないのではないかと思っています。
『つぶやき』より
渡部哲雄
避難して捨て来し里の家の庭此処と同じく咲きて匂ふか
若葉萌ゆる避難の先の葉桜に我が里の森花は咲きしか
被災地の悲痛な叫び届かざりもどかしき事を誰に伝へむ
雑草の生い繁りたる佇まひ主ぬし無き家に汚染せし町
故郷に捨て去りしまま立つ我が家主ぬし帰るまで身じろぎもせず
耕して守り伝へし吾が里は人影もなく荒野の如し
住み慣れし古里追はれし仮住まひ為す事もなく点す命火
生きて居てただそれだけの人生は原発事故と国の責任
断ち切れぬ故里の村転出を迷ひて決むる高きセシウム
落ちぶれて行くが如くの日暮らしに目指せる希望を何と定める