福島からの声 2015年9月

今回の「福島からの声」は、藤島昌治さんの詩集「仮設にて」から詩の連載の第三回目です。

川内原発をはじめとして原発の再稼働が、なし崩し的に進められようとしていることに言いようのない大きな不安を感じているのは私だけではないと思います。

 

私たちは、福島原発事故による放射能汚染の甚大な被害と居場所の崩壊という厳しい現実に直面している方々の声に耳を傾け、深い反省に立ってそこから学んでいくより他に、本当の居場所の復興に進む道はないと思います。

 

この「福島からの声」は私たち自身の〈いのち〉の居場所の声なのです。

(編集部 本多直人)

 


黒毛和牛の警告

「あぶない!」「危ない!」

こんなことが何でもないなんて

そんな訳がない

この首の回りに出来た

白い斑点は

震災の前は

こんなことは一度もなかった

ボク(牛)だけではない

他所の牛も

斑模様になってしまった

これが放射能のせいじゃなくて

一体何なんだ

とても毒性がないなんて

言える訳がない

あぶないぞ!

こんな所に近よるな

黒毛和牛のオレたちに

斑な模様なんていらない

 

 

家を建てました

家を建てた年よりがいます

二階建ての一軒屋です

爺さんと婆さんが住むには

広すぎる程の大きさです

 

「孫たちと一緒に暮したい」

年よりの願いが

垣間見えます

決して戻る事のない

孫たちへの

呼びかけのような

気もします

核災害というものは

何とも残酷な仕打ちを

するものです

 

 

おどけてみる

80才も過ぎて

そろそろ好々爺と

言われたいと思っていたのに

いつから

こんな耄碌爺々になったのだろう

誰のせいにも

何かのせいにもしたくはないが

二年半も 仮設に閉じ込められたせいなのか

原発のせいなのか

 

酒を喰らって

玄関の段を踏みはずし

ひどく転んで

顔は腫あがり

男前は台無しで

くるま(自家用車)も

免許証も

娘にとりあげられ

逆らうこともできず

見下げ果てられて

疎んじられ

うなだれて

みじめに思われたりのこれからなんて・・・・

 

これまで

家族を守り続けてきた

誇りも勲章も

屈辱と取り替えてしまったら

何を頼りに生きて行くのだろう

 

まだまだ何のこれしきと

ひょっとこの面を被って

訳のわからぬ戯言いって

からおけのうた(演歌)に合わせ

踊ってみる

頬かむりに竹棹摑んで

舟漕ぐ仕草

潔くはないが

自惚れと見栄を頼りに

「なぁ!みんな!元気に行くべ!」と

おどけてもみる

 

 

避難所から避難所へ

転々と避難所から避難所へ

何度も何度も繰り返し

ようやく 辿たどり着いた仮設住宅

四畳半一間の不自由に囲まれた

異様な空間

眠れない夜がつづく

苛立いらだちと絶望が交差する先の見えない不安

「もう だめだ! 頭が変になりそうだ!」

きのう そういっていた人が

フラフラと今日も歩いている

こんな事をこの先

何年繰り返せばいいのだろう

「頑張れ!」と言われても

「立ち上がれ!」と言われても

「前を向け!」と言われても

どこへ向かって進めばいいのだろう

折角 震災の中を生き延びたというのに

自らの命を絶つ人が後を断たない

そういうボクも紙一重の毎日

そんなボクの折れそうな心を

支えてくれたのはあなたです

日本中のあなたの励ましや支援のおかげで

辛うじてここにいます

助けてくれて「ありがとう!」

助けてくれる人が居るから

「すごい!」

そのやさしさがうれしい

心強い

その感謝の気持ちを伝えるために

精一杯の強がりと

精一杯の笑顔で

「がんばります!」

「負けません!」と

差し伸べてくれたあなたの手を握り返します