今回からの「福島からの声」は、これまで詩集の連載を頂いたみうらひろこさんから、新たに短歌をご紹介頂くことになりました。
作品では、放射能の被害によって被災地に取り残された牛たちの姿が、身をえぐられるような痛々しさで綴られています。それは居場所を奪われた生きものたちの声なき叫びとなって私たちの胸に突き刺さってくるようです。
豊かな〈いのち〉の居場所としての古里よりも、ひたすらに経済の拡大を優先してきた近代の社会、そして私たちの在り方に対するとして、生きものたちは自らの〈いのち〉を賭して、強く警告を発してくれているように感じられてなりません。
(本多直人)
忽然と 消えし飼い主待ちながら 「自立」というは牛にもあるや
力つき 堀に嵌まりて死せる牛 この悲しみと怒りをどこへ
餓して死す 牛の眼は見開らかれ この世の様をいかに映せむ
乳牛の 数多は餓して罷れど 和牛逞まし野辺に自活す
その巨体 支えるために雑草を食む ステ-キ牛コマ もはやなれずも
生きのびよ 放置さる牛生き延びて 安全神話の驕りを晒せ
サバンナの ヌ-のごとくに群なして 放置の牛はいづこに行くや
飼い牛の 証しの黄色い耳タグの 無き牛今は増えたりと聞く
防護服 着けて牛に餌を運ぶ 人もおわすをいかに受け止む
安楽死 させたる牛の弔いは ただただ苦い酒を酌しと