場の研究所メールニュース 2017年7月号

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場の研究所 定例勉強会のご案内

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ホームページ:http://www.banokenkyujo.org/

 

 

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「〈いのち〉を居場所に与贈して〈いのち〉の与贈循環を生み出そう」

〈いのち〉とは「存在を続けようとする能動的な活き」である。

                         (清水博)

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2017年7月のメールニュースをお届けいたします。

 

◎6月は場の研究所の勉強会は従来通り開催いたしました。

テーマ:「場の文化として日本語」のお話でした。

さらに、今回は井出祥子先生(日本女子大学名誉教授)に「敬語表現と日本文化」について資料ならびにお話をいただき、清水先生とお二人で中心になって、日本語の言語文化に於ける場を大事にするという表現の広さについて議論出来ました。

 

従来どおり、15時からはワイガヤということで、皆様へ新たな情報提供いたしました。内容は、現在、新潟で推進されている「地域の茶の間」という活動についてです。これを前川より紹介をしました。経緯は、場の研究所と長年連携させていただいている博進堂(株)さんの清水義晴会長と、10月に「与贈の博覧会」を一緒に開催を計画中で、その打ち合わせで、5月に清水博先生をはじめ場の研究所メンバーで新潟を訪問しました。その際に清水義晴さんの紹介で実際の「実家の茶の間:紫竹」を訪問しました。ここは、清水義晴会長と密接に関係して事業をしてきた河田珪子さんがスタートした地域活動の拠点のひとつで、

どこの地域でも課題となる高齢者の介護や見守りの対応を、高齢者自身が中心になって行っているものです。場づくりがちゃんとできていて活気のある茶の間できていると感じ、大変良い地域組織活動だと思いました。現在は、新潟市からの基盤的なサポートも生まれ、その評価の高い施設の運営を見ようと県外からの見学者も多く来ています。

今後の地域の場のあり方の良い例を教えていただけたので、下記のように紹介した次第です。

 

ここで、簡単に紹介します。

 

地域包括ケアシステムについて

◎この「実家の茶の間・紫竹」のスタートはH26年10月(なお、2003年より「地域の茶の間」はスタートして来ている)

◎コンセプト:この場での出会いを通じて、「困った時は助けて!」と言い合えるような地域の支え合いの関係を広げる

 

◎義晴さんと施設の方の説明:

・実際は、元気に参加する。受身にならない考え方。

・地域の方が主体になって参加している。

男性の参加者も多いのも特徴。

(この茶の間を作るのに協力した、男性も多い様だ)

・スタートはこの様な居場所づくりにむけて大きな農家で空き家になっているものを調査。三軒位を検討して現在の家を選定。ロケーション、広さ、使いやすさ、駐車場などでセレクト。・新潟市から初期費用40万円で改修。クリーニングと新規畳と、障子の修理などに使う。実際の作業は全て、ボランティア。備品は殆ど寄付。改修工事も、いろいろな会社やボランティアや住民メンバーが手弁当で対応。費用最小限で完成。

 

◎参加者のドライビングフォースは(義晴さんより)

 ①居心地が良い。

 ②距離感が良い。

 ③月に一回健康管理あり。保健師、看護師の当番制

 ④作業療法士も月一回の対応有り。

 ⑤特に夏休みは子供が多く来るので必ず高齢者が面倒を見ようとする。

⇒楽しい。

 ⑥一人暮らしの人は、このガヤガヤしている所が良いと言う。

 ⑦昼寝も出来る。(毛布が用意してあった)

 

◎皆さんが集う部屋には、河田珪子さんの経験による注意書きが有り。

①どなたが来られても「あんただれ?」という目をしない。

②プライバシーを聞き出さない。

③その場に居ない人の話をしない。

 

◎義晴さんは、この場が「人間浴」となっていると考えた。

「森林浴」ではなく、人とのふれあいが、癒しを与える。

⇒居心地の良さ。

 ・受け入れの形が重要。介護(サービス)してもらう、あるいは介護する場所ではない。

 ・やはり代表の河田さんが、寂しい人をほっておけない人だから、今も続いている。

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17時からは、清水先生よりメインテーマである、「場の文化としての日本語について」のお話がありました。

 

以下、資料抜粋:

マルチン・ブーバー『我と汝・対話』(岩波文庫)によれば、欧米で対話に使われる言葉は「我と汝」と「我と彼」しかないので、この二種類の言語を、ブーバーは根源語と呼んだ。前者は我が同じ場所に存在する汝に対して話しかける言葉であり、後者は我が同じ場所

にいない彼について話す言葉である。

 

日本語の興味深いのは、この二種類の根源語の他に、第三の表現がある点である。それは同じ場において存在する我と汝が場を通して互いの心中や考えを推しはかり(忖度して)、その場における互いの立場を了解し合いながら、言葉を選んで会話をする。言い換えると

場から見るという立場があることである。(参考:井出祥子「敬意表現と日本文化」)

 

生活体(生活をして存在していくもの)が生き続けていくためには、その内側にある人間で言えば、細胞などのような要素的な生活体の居場所(内部居場所)と、その生活体自身が生活する外部居場所の内外二つの居場所における〈いのち〉のドラマが互いの間に矛盾

を生み出することなく、継続的に演じられていなければならない。

このことから生活体はその生活史を通じて内部居場所のはたらきをできるかぎり相互整合的に外部居場所の活きに整合的になるように限定していく活きをもっていると推定される(cf. 科学的生物学の原理、〈いのち〉の医学の原理)。個体としての人間の意識は通常

自己の外部居場所に向かい、自己の存在を外部の居場所において捉えようとする。しかし自己の内部居場所の〈いのち〉のドラマが無自覚の内に行き詰まって、死の方から急いで自己に接近してくる「死との相互誘導合致」の例が多い。

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次に井出先生からの話を紹介します。

冊子「日本語学」の特集にお書きになった「敬語表現と日本文化」からお話をされました。

・最多安打記録を更新したときのイチローの話:

「これまで、いろいろな記録を出させてもらってきましたが・・・」自らの努力で出した記録なのに、なぜそう言うか?これが日本語の中にだけある、微妙な表現の素晴らしさである。自分一人の力で、記録が出たわけではなく、皆さんの応援があったお陰だとか、支えていただいているという表現が言葉に入ることが日本の場の文化。

 

・皇后さまが東日本大震災の被災者の方にかけた言葉:

「良く助かってくださいました。」「よく生きてくださいました。」

これは「下さる」という言葉に敬語が入っていて、皇后さまが、象徴としてのご自分を、被災者によって支えられている存在として話された。自他非分離の話し方であり、これも日本語の特徴。

 

もう一つ、

・天皇が東日本大震災の被災地で消防団の方へかけられたお言葉:

「ごくろうさま」ではなく「ありがとう!」であった。これも象徴としての天皇が、その国の被災者なめに懸命に働いてくれた人に対して礼を言うお言葉であることが素晴らしい。

 

〈いのち〉のドラマにおける相手の思いを捉え、相手の思いを思いやってうまく表現出来る言葉。日本語の表現については、清水先生の場の理論が大変重要で、場の理論はまた文化とも深い関係がある。

 

ただし、日本には場を大事にして忖度(そんたく)しすぎる問題も昔からある。

 

以上をまとめると、

①日本語の話ことばは「命題+モダリティ」が基本構造である。モダリティ表現とは、話し手が相手や場面をどう捉えているのかを示す話し手の心的態度の表現。

②日本語には敬意表現を支えるものとして敬語の他に、授受表現、使役表現、終助詞などのモダリティ表現が豊富にある。

⇒非指示的に話し手の心的態度を指標している。

③「場」とは話し手が存在する場所に生成する意味的空間で有る。話し手は自らをその空間の一要素として捉える。

⇒自己の二領域性が重要。内側から内的視点で観ると言う考えが重要。

 

◎清水先生からのコメント:

・「我と汝」と「我と彼」のとらえ方だけではなく、日本語にはもう一つ「場から観る立場」があるように思います。

主体的な活きを場へ自己開示する。それで、お互いの心中を推し量る活きが生まれる。大きな自然災害の下で生きていくためにはこれが重要。(但し、純粋さが薄れると、忖度の行きすぎとなる点は注意。)

・井出先生のお話は大変深い意味があり有意義なお話だったと思います。

 

 

■7月は場の研究所の勉強会は中止し、ダーウィンルームのイベントとして清水先生が講演をされます。

是非、議論を皆さまと交わしたいと思います。

 

テーマ:第2回 清水博ゼミ:

考えるということ〜創造的な思考の方法について〜

   第2回のテーマ:「天才の創造とは?」

──天才はどのように考えるのだろうか?

 

日時:7月15日(土曜)18時から21時00分までの予定です。

場所は下北沢のダーウィンルームです。

是非、ご参加ください。

 

◆ お申込み先

好奇心の森「ダーウィンルーム」担当:清水久子

〒155-0032 東京都世田谷区代沢5-31-8

tel & fax :03-6805-2638 mail:darwinroom@me.com

営業時間:12:00 - 20:00/不定休あり

http://www.darwinroom.com/

●参加費:5,000円

 

■編集後記

 今回は、前半で新潟の地域包括ケアシステムの例を紹介。参加者の皆さまも、素晴らしいという評価でした。メインの日本語の文化についても大変興味深いお話が聞けたと思います。従来とは少し違う観点で、言語表現における場の理論についての分析は良かったと感じました。

 次回のイベントは、7月15日(土曜)にダーウィンルームにて開催。

テーマが仮題「天才の創造的な思考の方法について」です。

ご参加のほどよろしくお願いいたします。

 

申し込みは、前述のダーウィンルームへお願いします。

なお、8月は夏休みということで勉強会はお休みさせていただきます。

9月は勉強会の代わりに場の研究所のシンポジウムを9月16日(土曜日)にエーザイ(株)にて開催予定です。ご参加のほど、よろしくお願いいたします。

 

今後、基本2ヶ月に一度として、年間の計画にダーウィンルームでの「考える」をテーマにした仮称:清水ゼミを何回か開催していく予定です。よろしくお願いいたします。

 

特定非営利活動法人 場の研究所

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