今回の「福島からの声」は、前回に引き続き南相馬の短歌会「あんだんて」の合同詩集(第九集)の中の根本洋子さん(これまで掲載を頂いてきたみうらひろこさんの本名です)の作品集「ふるさとの六年(むとせ)」からの連載をさせて頂きます。
今回ご紹介させて頂く「原発棄民」という題。その響きのなんと重いことでしょうか。
原発事故によって根こそぎ失われたものは、単なる空間ではなく、そこに棲む人々の育んできた故郷という居場所の〈いのち〉であったことが、この言葉から痛いほどに心に突き刺さります。
復旧が進み、新たな年を迎えても、失われた居場所の〈いのち〉は簡単に戻ってきません。
それは居場所が人々の心の内側にあるものだからなのです。
私たちが本当に問いかけていかなくてはならない問題はそこにあるのです。本多直人
原発棄民
引きずって いるのではない刺さってる 原発事故の棄民となりて
りんご飴 手にする娘らとすれちがう 避難者われに華やぎ分けて
久々に 自宅に入りて昼の闇 解き放つごと カーテン開ける
ふるさとに 還れぬままに逝きし人の 短歌を偲びぬ 文芸欄に
ともすれば 繰り言となる望郷の 思いも添えて タブの木植える
モネの絵と 見まがうばかり原子炉の 容器残量の デブリの写真
くれないの つらつら椿古里の 垣にも咲くを 愛でしぞと思う