今回の「福島からの声」は、これまでに続いて、根本洋子さんの俳句集「避難解除」の中から「巡る春」の掲載させて頂きます。
東日本大震災から8年目を迎えた春。
原発事故によって故郷を奪われた多くの方々にとって、8年目を迎えた春は、どのような姿で心に映されているのでしょうか。
根本さんの俳句からは、人々の計りようのない虚しさや不条理だけでなく、人間と共に居場所を創っていた草木やいきものたち、そして大地の悲しみまでも伝わってくるように感じられるのです。居場所の失うということの大きさ、その傷の深さ。おだやかな春ゆえに、一層、深く心を締め付けてくるようです。
原発事故から未来に踏み出す一歩は、この苦悩の大地から踏み出さなくてはならないのだということ。そのことを私たち日本人は、8年目だからこそ、さらに深く心に刻みながら、復興を問いかけていかなくてはならないのです。
(編集者 本多直人)
巡る春
行く春を 愛でることなく 故郷捨て
未だ疼く あの日吹雪の 峠道
巡る春 師は核災と 名づけたる
バリケ-ド 杭が隔てる水仙花
古里は フレコンバッグや 椿落つ
春雷や 一時帰宅を 追いかけて
新緑や 放射線量 まだ高し
桜しべ 泪のように 降りし午後
挙り立ち 芽をはぐくめや わが居久根
解除なき 里の居久根や 椿咲く