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■場の研究所からのお知らせ
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皆様
場の研究所の理事の前川泰久でございます。
新年度の4月になりました。首都圏の緊急事態宣言は解除されましたが、変異種の拡大も懸念され、収束方向にはなく今後の動向が心配です。ようやくワクチン接種がスタートしましたが、時間がかなりかかりそうです。でも、今年も桜の開花がはじまりましたので、明るい未来を期待して行きたいと思います。
3月の第10回目の「ネットを介した勉強会」が予定通り開催されました。
(これは電子出版された清水 博『共存在の居場所:コロナによって生まれる世界』が「勉強会」の共通の基盤になっています。)
テーマは「存在と与贈」でした。この清水先生の資料では、社会活動が「人・人型」から「人・居場所型」への変化という、新しい表現の説明から始まり、これまですすめてきた「ネットを介した勉強会」は「人・居場所型」の一つであるという解説もありました。わかり易かったと思います。今回も皆さんのいろいろな経験をベースにされた意見が多く寄せられ、良い議論が出来たと思います。
4月も、「ネットを介した勉強会」を開催します。(今月は第4金曜日の23日の予定となります。)
基本のテーマは「共存在」で進める予定です。
毎回コメントしておりますが、ネット上での「共存在」の場ができて来ていると感じております。今後も、その原因を探りながら改良を重ねて継続し、広げて行きたいと思っています。
なお、これまで、「ネットを介した勉強会」の内容については、メールニュースで議論状況や資料をご紹介してきております。もし、ご感想、ご意見がある方は、前回同様、今回も下記メールアドレスへお送りください。今後の進め方に反映していきたいと思います。よろしくお願いいたします。
ご感想、ご意見は、こちらのアドレスへお送りください。
contact.banokenkyujo@gmail.com
メールの件名には、「ネットを介した勉強会について」と記していただけると幸いです。
◎コーディネーターのこばやし研究員からのコメント:
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この「ネットを介した勉強会」という勉強会そのものの話は、当メールニュースの後半、3月の勉強会の内容のまとめの方(内、8.の箇所です。)に詳しく、そして、分かりやすく書かれていますので、そちらもご一読ください。
そして、私自身が、そのまとめを読みながら感じたことを今回は書いてみようと思います。
この勉強会とは、どんな勉強会なんだろうか?と考えてみると、こんな風に言えるかもしれません。
この勉強会は、「つい、(意見を、考えを、質問を、感想を)書きたくなってしまう勉強会」のようです。
この、つい書きたくなってしまう…、という点が特徴的なのではないかと思いました。
論文(先生の文章)を読んだら、つい1通目を書きたくなり、皆の1通目を読んだら、つい2通目を書きたくなり…、と続く、書きたくなる勉強会、と言うことです。
なんででしょうね。(笑)
そのことを考えてみます。(内容のまとめ「8.」と合わせて読んでみてください。)
確かに先生からの資料(論文)の内容は、難しい面もあります。
ですから、「さっと理解できて、分かりやすいっ!」とは言えません。(笑)
しかし、このような特徴はあります。
1)どの場面でも、次、どうしていいか分からないことにはならないようになっている。
2)また、それと同時に、直前の返信の全体が、その後の返信を誘っている形がある。
2)をもう少し詳しく書くと、最初(1通目)の返信は(先生の)論文が誘いかけています。
そして、次(2通目)の返信は、論文への1通目の返信全体が論文の理解と言うか、論文の世界をアップデートして、その全体が誘いかけてくるのです。
そして、ついその誘いに乗りたくなる。そんな風に言えます。
次の3通目は、この繰り返しです。
そして、最近の勉強会では、3通目では足りず、延長戦と言いますか、ここでは「余韻」と呼んでいる時間が作りだされています。
この2つの特徴が、内容のまとめ「8.」で説明されている手順の中に現れてきます。
そして、この2つの特徴の本質は、「生きていく」際の特徴でもあるように思いました。
「ネットを介した勉強会」は、勉強会で学んでいる内容が体験として同時に在ることが面白い。
そう言いたいです。
以上。==========
◎「ネットを介した勉強会」の3月のテーマ「存在と与贈」の資料
(清水先生の資料)のダイジェストを紹介します。
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<存在と与贈>
1.社会における人びとの活動の変化(コロナの影響を踏まえて)
◎「人・人型」⇒「人・居場所型」へ
従来は「人・人型」 :社会的な活動は人と人とが出会うことにより生まれ、
対面的な社会活動が生まれて社会を動かす。
今後は「人・居場所型」の社会へ
・人びとは夫々居場所において生活:
人は夫々の居場所を「舞台」として、その「舞台」において「生活」という
ドラマを演じていく「役者」になっている:(これが基本形)
・そして社会にも「大きな居場所」を作りながら、互いの「ドラマ」を結び付けて
「社会的なドラマ」を生み出していくような活動が生まれている:
(現代では、この「社会的なドラマ」の「舞台」は部分的にネットワークにより強くサポート)
注:このようにして「社会的なドラマ」によって生まれる人と人の関係を「つながり」という。
⇒「つながり」による活動の特徴:人びとの存在の多様性を越え短時間に世界的に広がっていく点
★まとめ:対面の活動⇒「つながり」を生み出す活動へと変化している
2.共存在と与贈について
・存在しているものを「存在者」とよび、居場所という「舞台」と非分離になって(つながって)
「役者」としての自己の〈いのち〉を表現していく存在者の表現を「存在」と呼ぶ。
注:「共存在」とは大きな社会的な居場所に人びとがつながって存在すること
・「共存在」がどのようにして生まれるかを理解するためには、「つながり」が生まれる活きを深く知る事が重要⇒与贈
★必要なこと:自己の存在が「〈いのち〉の与贈」によってどのように変わるかを知ること
注:〈いのち〉:存在を継続的に維持していく能動的な活き
⇒与贈はギブ&テイクの関係を越えて自己の〈いのち〉の活きを差し出すこと
3.共存在の状態を生み出すために
・人と人が対面して生活を続けているときに、共通の居場所がない状態だと一方の人だけが
他方の人に与贈を続けていると、不安定になり維持できない(本来はギブ&テイクのため)
⇒この2人が、共通の居場所に存在して互いの〈いのち〉をその居場所に与贈していくと状況が変わり、「居場所の〈いのち〉」が生まれ、その〈いのち〉によって2人が包まれてくる。
★これを〈いのち〉の与贈循環という
・与贈循環によって、2人の居場所の〈いのち〉がつながって、それぞれの存在に非分離な関係がうまれ、居場所の〈いのち〉を媒介にして、2人の〈いのち〉もつながって、2人の間の共存在の状態が生まれる。
・共存在の社会への拡大
人々の存在は与贈によって居場所を媒介にして、立体的に広がって、多人数の共存在が生まれる。
⇒与贈循環は多様な存在者を区別しない。重要なのは居場所に与贈しているかどうかで、与贈循環は多様性な人々の存在をつないでいき、人々の存在がつながれて、多様な人々の共存在がうまれる。
4.「人型・居場所型」に生まれる「共存在の時代」
・条件:「居場所」を「舞台」にして、多様な人びとが「役者」になって、「舞台」に与贈していくことによって、共に「〈いのち〉のドラマ」を作って、大きくつながって生きていくことが必要。
・ドラマ:ストーリー(物語)があり、その物語に従って「舞台」と「役者」の活きが生まれていく。
従って、物語がどのようにして生まれるかを示さなければ、共存在の「ドラマ」が不明確。
5.ドラマの物語がどのように生まれるのか?
・「役者」としての人びとが「舞台」と非分離な形で存在している「舞台としての居場所」があり、そこにそれまで続いてきた「物語の旧い全体」がある。その「物語の旧い全体」と矛盾しないように役者の活きによって「物語の新しい部分」が生みだされ、そして「物語全体」を新しくしていく。
・それまで続いてきた「物語の旧い全体」によって「物語の新しい部分」は影響を受けるが、また「物語の新しい部分」によって、それまでの「物語の旧い全体」も影響を受ける。
★まとめ:
・「物語の旧い全体」と新しく生まれる「物語の新しい部分」とは、互いに矛盾しないように相互に影響を与え合いながら融合して、「物語の新しい全体」を作っていく。この変化を、「物語の旧い全 体」を「鍵穴」とし、「物語の新しい部分」を「鍵」として、その「鍵穴」と「鍵」が相手を誘うようにして相互に合致していくことにたとえて、私は「相互誘導合致」と名づけている。
・「物語の新しい全体」を生みだしていく活きは、このように物語のなかでおきている「相互誘導合致」。⇒相互誘導合致が繰り返されながら、居場所に「ドラマ」が進んで行く。
・私たちの体の中ばかりでなく、自然界でも、さまざまな生きものが相互誘導合致の物語を繰り返しながら、「〈いのち〉のドラマ」を生みだしている。
◎与贈が存在に動きを与えることによって〈いのち〉の物語が生まれ「〈いのち〉のドラマ」が地球を舞台にして演じられていることに注目。
中略
6.互いの存在間の「同時性」について
・居場所の生きものの間に「つながり」が生まれるために必要なこと
⇒互いの存在の間に「同時性」があるということ
・「同時性」とは:
居場所における与贈循環によってつくりだされる「暗在的な時間」(時計では計れない時間)を、
その居場所に存在している生きものが感覚的に共有しているということ。
・この与贈循環が生み出す「暗在的な時間」とともに、その居場所の歴史が進んでいく。
・歴史的時間は「暗在的な時間」として、その居場所に存在する人びとが感覚的に共有している時間であるので、客観的に時間として計ることはできない。
・同じ居場所に生きている人びとは、そこで生まれる歴史的時間を共有することで、互いの間につな がりを感じている。
・与贈循環の速さは居場所の大きさなどの空間的な性質や与贈の大きさや方法などによって変わるが、一般に居場所が大きくなるほどその時間もゆっくりと流れ、それにともなって人びとのつながり感も緩くなっていく。同じ居場所に同時に存在していなければ、同時性は感じられないので、居場所を離れた後でその時間性を思い出そうとしても、それを客観的に表すことはできない。
・「同じ釜の飯を食った仲間」ということわざは、同じ居場所における「同時性」を共有して、互いに存在がつながった仲間という意味である。
・一般に大きな場所ほど「暗在的な時間」はゆっくり流れるから、その同時性も大まかになっていく。歴史的相互誘導合致は、居場所を包む大きな居場所に生まれる歴史的時間を、生きものの活きによってその居場所に生成する活きである。
7.小まとめ
・存在者としての生きものがその〈いのち〉を居場所へ与贈することによって、居場所に「居場所の〈いのち〉」が生まれ、その与贈循環を受けて生きものの〈いのち〉がつながり、居場所に生きものの共存在が生まれる。
・このことは新型コロナの影響を受け入れながら、人びとがこれからの「人・居場所型」の社会を生きていく上で非常に重要。また地球を「大きな居場所」として多様な人びとが一緒につながって生きていく上でも必要。
・このような新しい原理が、なぜ明らかになってきたかというと、それまで世界で広く伝統的に使われてきた「生命」という概念に代わって、〈いのち〉という活きを新しく考えて定義をしたからである。
・そのことによって、「〈いのち〉の与贈」という生きものの活きを考えることができるようになり、与贈によって居場所の〈いのち〉を媒介にして生きものの〈いのち〉がつながることから、生きものの存在とその居場所の活きに関する様々な謎が一気に解けてきたのである。
(清水博『〈いのち〉の自己組織』東大出版会)。
・そして今回、その暗在的な時間の世界にはたらいている法則が、相互誘導合致および歴史的相互誘導合致という形にまとめられた。
8.ネットの上で与贈循環の形をつくって勉強をする「ネットを介した勉強会」について
・十数名の人びとがこの勉強会に参加して受講してみたところ、互いの存在の間につながり感が生まれて全員の共存在意識が高まるという結果になっている。
・居場所の活きをするのは小林研究員で、勉強会の新しい課題(論文)が講師(清水)の所から、勉強会の一週間前ぐらいまでに、毎月、「居場所」の小林研究員へ送られる。小林研究員(以下その存在と居場所を「居場所」とも略記)からは、その論文を音読した録音とそのコピーの形で各受講者へ資料が送られてくる。
・受講者は先ず自己の「居場所」から与贈を受けることになる。
★勉強会は、「居場所」という「全体」の〈いのち〉の表現の与贈から始まることになる。
・次に各受講者は、勉強会の前日までに、その資料を読むなり聞くなりして、それに対する自分自身の考えなり、質問なり、感想なりを、自己の〈いのち〉の与贈として「居場所」へ送る。
(その場合に、小林研究員と私も共に勉強会の受講者としても平等に取り扱われる。)
★これは生きもの(存在者)からの居場所への〈いのち〉の与贈に相当し、ネットを介して「与贈循環」が開始されたことになる。
★受講者(「存在者」)から送られてくる与贈をさらに加えることによって、「居場所」の「全体」としての状態が新しくなる。各受講者から「居場所」へ届いたすべてのメールは、自分自身が発したメールを含めて、そのまま「居場所」から受講者のところへ与贈されるので、受講者は新しくなった「全体」(新しい全体)を勉強会の前に知ることができる。
9.〈いのち〉は物質ではなく活きであるネットを介して「居場所」へ与贈することが可能
・ネットを介して与贈されてきた活きを、「居場所」が〈いのち〉の与贈として受け取るためには、既に「居場所」にも〈いのち〉があって、自己の〈いのち〉の活きとしてそれを与贈として受容できるかどうかを判断できる必要がある。多様な存在者から〈いのち〉の与贈を受けることを考えると、少なくとも最終的な判断は〈いのち〉によってなされる必要がある。
10.まとめ
・「生命」による伝統的な主語的概念に代わって、〈いのち〉という述語的な活きを考えたことから、存在の世界が与贈循環と結びついて述語的論理の形で広がり、相互誘導合致という述語的法則が発見され、さらに小林研究員によってネットを活用する実践的な応用の道が開かれたことになる。
・リモート状態での会議などに広く使われているZoomと、このネットを介した相互誘導合致を比較してみると、すべての参加者の表現が当人を含むすべての参加者に循環的に送られるところは共通している。だが前者になくて、後者にあるものが、参加者全体の「居場所」である。参加者がネットを介してこの「居場所」に与贈できることよって、「全体」と「部分」を区別することができ、「与贈循環」という「居場所」における述語的な活きを定義することができ、それを基盤として相互誘導合致という活きが生まれるのである。
・この相互誘導合致はまた、西田幾多郎が矛盾的自己同一に関係して提唱した述語的論理を物語という動的なプロセスの形で表現している。これはZoomが主語的論理によって使われていることに対して、対照的な違いとも言える。この違いによって、参加者の間につながりが生まれて、共存在が実現する。
以上
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以上の資料をベースに議論を行いました。場の研究所では、哲学や精神から知識を切り離さないための努力をこれからも重ねていきます。
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◎「ネットを介しての勉強会」開催について
4月の勉強会ですが、第1金曜日が3日でしたので、通常の第3金曜日の16日開催のですと、日程上余裕がないことから、第4金曜日の23日に延期して開催したいと思います。
場の研究所スタッフと有志の方にご協力いただき、メーリングリスト(相互に一斉送信のできる電子メールの仕組み)を使った方法で、参加の方には事前にご連絡いたします。
この勉強会に参加することは相互誘導合致がどのように生まれて、どのように進行し、つながりがどのように生まれていくかを、自分自身で実践的に経験していくことになります。参加される方には別途、進め方含めこばやし研究員からご案内させていただきます。
(参加者の方には勉強会の資料を早めに送ります。)
参加されない方にも、これまでの様に来月のメールニュースでテーマ資料など内容の説明を致します。
なお、今後、状況の好転があれば、イベントの開催について、臨時メールニュースやホームページで、ご案内いたしますので、今後ともサポートをよろしくお願いいたします。
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今後の、イベントの有無につきましては、念のために事前にホームページにてご確認をいただけるよう、重ねてお願い申し上げます。
2021年4月4日
場の研究所 前川泰久