福島からの声 202年01月号

今回の「福島からの声」は、詩人みうらひろこさんの詩集「ふらここの涙―九年目のふくしま浜通り―」からの連載の7回目です。

福島第一原発での事故によって発生した高濃度の放射性物質を含む汚染水。もはや、敷地内にある大型の1061基ものタンクは94パ-セント(12月現在、東京電力HPより)まで溜まってきており、処理水の海洋放出の問題も私たちの暮らしの最も身近なところにまで迫ってきているのです。コロナ禍の中、こうした私たちの〈いのち〉の未来に関わる深刻な問題がなし崩し的に進められていくことだけは避けなくてはなりません。

戦前の随筆家でもあり、物理学者でもあった寺田虎彦は、著書の日本人の自然観の中で「西欧科学を輸入した現代日本人は西洋と日本とで自然の環境に著しい相違のあることを無視し、従って伝来の相地の学を蔑視して建てるべからざる所に人工を建設した。そうして克服し得たつもりの自然の厳父のふるった鞭のひと打ちで、その建設物が実にいくじもなく壊滅する、それを眼前に見ながら自己の錯誤を悟らないでいる、といったような場合が地近ごろ頻繁に起こるように思われる。」と鋭く指摘しています。私たちの反省はこの10年で果たして深まってきたと言えるのでしょうか。今回のみうらひろこさんの詩「デブリのことなど」を皆さんにも是非読んで頂いて、廃炉の問題、処理水の問題も含めてしっかりと問いかけて頂きたいと思っています。

本多直人

 


デブリのことなど

 

デブリという用語を知ったのは

核災から六年目のことだ

メルトダウンした原子炉が爆発し

その時溶け落ちた核燃料のことだ

核災後八年

そのデブリなるものの実体がわかる

テレビの映像では

ウニ丼かと思うような色をしていた

 

デブリ(そいつ)に接触するため

いろんな呼称をもったロボットが開発された

何しろそいつは

高濃度の放射性物質を出しているため

サソリとかアライグマと名付けられ

開発されたばかりのロボットたちは

次々に制御不能になったり

溶けてしまって

人間の思いに応えてくれないのだ

私達の知らないところで

昼夜をいとわず働いている人達がいる

何億円というお金を注いで

技術者たちが開発したロボットは

わずか三、四秒で放射能のため力がつきた

そしてついに八年目にして

デブリに接触出来たロボットの登場

廃炉作業の第一歩だ

しかし高濃度のそいつ(デブリ)を

取り出した後、どこに置くのかと

新たな問題の発生

 

日本中の人達に知ってほしい

これが事故八年目の実態だ

トリチウムを含んだ汚染水の未処理の

増えつづけるタンクの群れ

未だ故郷に帰還出来ない四万余の人達

復興とは名ばかりの初期の段階だから

原子力発電所はもういらない