このメールニュースはNPO法人「場の研究所」のメンバー、「場の研究所」の関係者と名刺交換された方を対象に送付させていただいています。
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■場の研究所からのお知らせ
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皆様
7月になりました。いよいよ夏本番となり暑い日が続いています。最近の梅雨はシトシトではなくて、豪雨になることもあり備えが必要な状況ですが、お変わりございませんでしょうか?
コロナについては規制緩和となって、社会に活気が戻ってきており、海外の方々の日本旅行も増えてきています。しかし、一部で感染拡大もあり、やはりまだワクチン接種が必要かと思います。どちらにしても自己防衛、体調の自己管理で頑張りたいと思います。
さて、場の研究所の第37回「ネットを介した勉強会」は、6月23日(金曜日)に開催いたしました。「楽譜」のテーマは『場をホスト━ゲスト問題として考える』でした。
20人を超える参加をいただき、また新たな勉強会にご参加くださった方、ありがとうございました。
なお、「ネットを介した勉強会」の内容については、参加されなかった方も、このメールニュースの内容を是非参考にして下さい。
そして、7月の「ネットを介した勉強会」の開催は、第3金曜日の7月21日を予定しております。よろしくお願いいたします。清水先生からの「楽譜」のテーマは『生命の誕生と場』の予定です。
もし、ご感想、ご意見がある方は、下記メールアドレスへお送りください。今後の進め方に反映していきたいと思います。
contact.banokenkyujo@gmail.com
メールの件名には、「ネットを介した勉強会について」と記していただけると幸いです。
(場の研究所 前川泰久)
・2023年6月の勉強会の内容の紹介:
◎第36回「ネットを介した勉強会」の楽譜 (清水 博先生作成)
(オーケストラになぞらえて資料を「楽譜」と呼んでいます。)
★テーマ:『場をホスト━ゲスト問題として考える』
◇茶室におけるホスト━ゲスト
・日本の伝統的な場の文化の本質を最もよく表現しているものとして、茶道がある。茶道は亭主(ホスト)が自分の居場所である茶室に客(ゲスト)を招いて茶を接待するという形をとっているが、〈いのち〉の与贈によって、亭主の〈いのち〉とその存在の居場所としての茶室の〈いのち〉とが非分離となっているように工夫が凝らされている。
・そこへゲストとして招かれる客人も、自己の〈いのち〉以外の活きを外の世界から持ち込まないように、自己の〈いのち〉を場所に預けるようにして、にじり口から自己の〈いのち〉を茶室に与贈させていくのである。
・客人が亭主から茶の接待を受けることは、ゲストの存在が〈いのち〉の場所である茶室の〈いのち〉を通じて、〈いのち〉の与贈循環をつくってつながる形をつくるということである。亭主と客人の存在を包んで与贈循環を生み出している「〈いのち〉の場所」である茶室の活きが場である。
・このことは、場の活きによって、ホストとゲストの存在がつながることを意味しているので、日本の伝統的な茶道は、大きくは「ホスト━ゲスト問題」と言われる場所的〈いのち〉の創造を最も純粋な形で表現しているということができる。
◇免疫現象におけるホスト━ゲスト問題について
・ホスト━ゲスト問題は日本に限らず、〈いのち〉の世界に広く見られる現象である。
・たとえば、新型コロナのワクチンですっかりなじみになった免疫反応がそうである。この場合は、抗原(新型コロナウイルス)が客人、ワクチンがつくる抗体が主人、そして主人と客人の存在がつながる〈いのち〉の場所が私たちの身体である。
・ワクチンの接種を受けた後で、私たちの身体に主人が生まれて、身体がその居場所に変わる変化がおきるので、その変化にはある程度の苦痛を伴う。それを嫌ってワクチンを認めない方もおられるようである。
・免疫現象は、抗原を「鍵」としたときに、その「鍵」の形にぴったりと合致する「鍵穴」の形をした抗体が身体に創造されて、「鍵」の活きを取り除く変化であると考えられていたが、分子レベルでの研究がいろいろ進んでいくと、鍵と鍵穴のように、ぴったりと合致する形ができるのではなく、恋人が互いに引き合うように、抗原の一部と抗体の一部が互いに引き合って「鍵」と「鍵穴」として双方から合致していく相互誘導合致 mutually induced―fit という変化がおきていることが分かってきたのである。
・この変化は、免疫現象ばかりでなく、酵素による基質分子の分解にも一般的に見られ、生きものの身体における〈いのち〉の選択的なつながりを創造的につくるホスト━ゲスト問題として広く見られる変化であることが次第に分かってきたのである。
◇オーケストラにおけるホスト━ゲストの関係
・ホスト━ゲスト問題は、主人とその居場所、その居場所に招かれる客人の三者の〈いのち〉と、その〈いのち〉の与贈循環によって生まれる現象であるから、日本文化に限らず、生きものの世界に広く見られる創造の現象であり、〈いのち〉の世界における場の活きの普遍的な重要さを示している。
・たとえばオーケストラでは、指揮者をホストとし、楽団員をゲストとし、演奏会場をホストの居場所とし、ホストとゲストの相互誘導合致によって〈いのち〉の与贈循環がおこって場が生まれ、指揮者と楽団員、楽団員と楽団員との〈いのち〉が互いにつながって場所の〈いのち〉が創造的に生まれて、オーケストラが一体になって、指揮者の指揮にしたがって「楽譜」が活き活きと演奏されていく。
・茶室における茶の接待と異なるのは、演奏を聴く外来の観客が大勢存在することである。
◇ホスト━ゲスト問題での重要ポイント
・ホスト━ゲスト問題で重要なことは、ホストの居場所において、ホストとゲストの〈いのち〉がつながるばかりでなく、ゲストが参加する形で与贈循環がおきて、そこに場所の〈いのち〉が創造的に生まれ、その〈いのち〉が場としてはたらくために、ゲストの〈いのち〉も、ゲストの存在の多様性を活かした形で互いにつながるという点である。
・分かりやすく考えると、相互誘導合致によって場所の〈いのち〉を表現する「ドラマ」が、ホストを「監督」とし、その居場所を「舞台」とし、ゲストを「役者」として生まれる「〈いのち〉のドラマ」の創造が現象としてのホスト━ゲスト問題である。
・その「ドラマ」の進行に重要な役割をする「舞台」の活きを生み出しているのが、「舞台」に生まれる場である。
・ただし、たとえば私たちの家庭について考えると、昔は知らず、少なくとも現在では、夫と妻の内のどちらかをホストとして考えることはできない。そこで両者がよく話し合って、「ホスト」の活きを家庭につくり出し、それぞれはその「ホスト」の下での「ゲスト」として、家庭という〈いのち〉の居場所を中心に振る舞っていくということになると思う。
・そしてその「ホスト」が家庭生活という「〈いのち〉のドラマ」の「監督」に相当することになる。その形は、憲法という「ホスト」の下における国民の生活に少し似ている。
◇「〈いのち〉のドラマ」と舞台について
・「〈いのち〉のドラマ」には、一般に、観客がいる。そしてその観客が存在することによって、「〈いのち〉のドラマ」は「舞台」の上でのできごとから、観客が住んでいる世界の歴史につながって行く。
→つまり、「舞台」の上のできごとが、世界におけるできごととなるのである。
・日本でも、歌舞伎が社会的に開かれ、成駒屋とか成田屋をホストの場所として、ホスト━ゲスト問題が成り立っていたのであるが、一般にヨーロッパに比較すると、社会一般における「〈いのち〉のドラマ」の開かれ方が少なく、その閉鎖性が日本の社会の特徴になってきたと思う。
◇浄土真宗におけるホスト━ゲスト問題
・先月(23年5月)の勉強会では、「生命と〈いのち〉」というタイトルで〈いのち〉の与贈循環を中心にした場の理論を紹介し、その形が浄土真宗の親鸞の救済論と同じ形をしているという説明をした。
・そのことは、浄土真宗における〈いのち〉の救済はホスト━ゲスト問題として理解することができるということであり、具体的には、ホストが阿弥陀如来、ホストの居場所に招かれるゲストが救済される信者、相互誘導合致によって生まれる「〈いのち〉のドラマ」の「舞台」が浄土、〈いのち〉の与贈である念仏によって、「〈いのち〉のドラマ」に誘われて、その「役者」になるのが往相回向、そしてゲストが〈いのち〉の与贈循環の活きによって生まれる場として、人びとをその「〈いのち〉のドラマ」に誘うのが還相回向に相当することになる。
(キリスト教では、イエスが復活によって〈いのち〉を得て人びとを救済するので、救済の形が似ていても、ホスト━ゲスト問題の形とは異なる。)
◇清水の「場」についての研究経緯について
・私は40歳台で東京の大学へ転勤して、自分が大切に思っていることを手加減せずに、そのまま学生に話しかけるように教えることができるという教師としての幸せを感じていたが、ある日、講堂における生物物理学の講義で相互誘導合致の話をしているときに、突然、「相互誘導合致によって場の本質を理解することができるのではないか!」という発想がひらめいて、しばらく講義を中断してしまったことがある。
・それは「日本文化は場の文化と言われているが、場とは何か?」と外国の知識人に問われたときに、日本の代表的な知識人たちは、「場は西田哲学の場所と関係があるかも知れない」と答えることしかできず、恥ずかしい思いがしたということを、その会合に出席していた人から聞いていたからである。
・それで私は50歳になったのをスタートとして、家内に毎日弁当をつくってもらい、昼間は生命の研究と教育をし、多くの皆さんが帰宅を始めた後で、その弁当を食べ、12時を過ぎる頃まで相互誘導合致によって場を解明する研究を始めた。
・土曜日に自宅に帰るとリラックスしてしまうので、毎週土曜日はホテルに泊まって研究し、60歳で大学を定年になった後では、次に受け入れていただいた金沢工業大学では、毎週半分ほどは研究室に泊まり込んで、私なりのできるかぎりの努力を70歳までしたのだが、科学的にその本質が解明されていない生命の活きにこだわって相互誘導合致を考えていたために、それが理解の深さの限界になった。80歳に近づいた頃から生命にこだわることを捨てて、存在を継続的に維持しようとする能動的な活きとして〈いのち〉を定義して、〈いのち〉の居場所への与贈を中心に考え始めて、〈いのち〉の与贈循環をその重要な法則として考えることができるようになった。
・そのことで思索が進んだので、90歳になって、ようやくホスト━ゲスト問題として「〈いのち〉と場」を分子レベルから地球レベルまで応用できる普遍的な形で取り上げることができる「〈いのち〉のドラマ」として考えるようになったのである。
・様々なレベルで多様な〈いのち〉の活きを一つの調和した形に創造的にまとめる活きとして、場を考えることができると思う。
◇生命からではなく〈いのち〉から考えることの重要性
・生命にこだわって考えるのを止めて〈いのち〉から考えることを始めるまで、多様な生活体を包んで一つにまとめて、その個別な多様性を尊重しながら、集まりとしての集団的な活きを創造的に引き出す場の活きの本質に触れることはできなかった。
・それは━生命を与贈すれば生命体は死んでしまうので━ゲストの生命をホストの居場所に与贈することはできないが、ゲストの〈いのち〉は与贈できるので、〈いのち〉の与贈循環によって、ホスト━ゲスト問題を「〈いのち〉のドラマ」の形にまとめることができるからである。
◇「〈いのち〉のドラマ」には〈いのち〉の与贈循環が生まれることが必要
・この「〈いのち〉のドラマ」の形によってゲストの個別的な多様性を重んじながら、集まり全体を一つの形に創造的にまとめることができるのである。
・そのために必要なことは、時間差相互誘導合致に対応して円環的時間が場所に生まれるということであり、そのためには〈いのち〉の与贈循環が生まれることが必要である。
・時間差があるということは時間的な変化があるとうことであるから、場と時間とを結びつけるためには「〈いのち〉のドラマ」のような形が必要になるのである。
・生命にこだわっている限り、論理としてはどこかで飛躍して、西田幾多郎の矛盾的自己同一を受け入れなければならないことになってしまうので、時間が生まれない。
・したがって、分子レベルから地球レベルまで活用できる普遍的な科学的法則として、場の活きを考えることは不可能である。これからの時代に地球の上で生きていくためには、場を開いて、その活きを科学的にも考えていくことができることが必要である。
◇研究継続に対する謝辞
・私なりの人生における場の研究を振り返るときに、現在に至るまで引き続き多くの方々の交流と支援をいただいているが、忘れてならないのは、妻光子の献身的なサポート、本田技研工業社長の久米是志氏の長年にわたる温かいバックアップ、金沢工業大学の研究支援機構長岩下信正氏の強力なご支援である。
・さらにその後は、株式会社日本ソフトの代表栗原敏明氏の一貫したサポートがなければ、ホスト━ゲスト問題としての場を研究することは到底できなかったと確信している。
以上(資料抜粋まとめ:前川泰久)
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◎2023年7月の「ネットを介した勉強会」開催について
2023年7月の勉強会ですが、最初にお知らせしましたように、従来通り、第3金曜日の21日に開催予定です。よろしくお願いいたします。
今回も、場の研究所スタッフと有志の方にご協力いただき、メーリングリスト(相互に一斉送信のできる電子メールの仕組み)を使った方法で、参加の方には事前にご連絡いたします。
この勉強会に参加することは相互誘導合致がどのように生まれて、どのように進行し、つながりがどのように生まれていくかを、自分自身で実践的に経験していくことになります。
参加される方には別途、進め方含め、こばやし研究員からご案内させていただき、勉強会の資料も送ります。(参加費は無料です。)
場の研究所としましては、コロナの状況を見ながら「ネットを介した勉強会」以外に「哲学カフェ」などのイベントの開催をして行きたいと考えています。もし決定した場合は臨時メールニュースやホームページで、ご案内いたします。
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今後の、イベントの有無につきましては、念のために事前にホームページにてご確認をいただけるよう、重ねてお願い申し上げます。
2023年7月1日
場の研究所 前川泰久