福島からの声



2018年分

福島からの声 2018年11月

今回の「福島からの声」は、これまでに続いて、根本洋子さんらが合同歌集として出版されている「あんだんて」の中からの根本さんご自身のコラム「詠むことが記録」をご紹介させて頂きます。

最近では、溜まり続ける汚染水処理後の海洋廃棄が大きな問題になっています。

放射能汚染の拡大に対する懸念はまずます拡がり、その収束の道筋すら見えていません。

にもかかわらず、「安全」と言う言葉を巧みに使い、それを隠れ蓑にして、現状を覆い隠しながら進められていく再稼働ありきの政府の政策には、強い憤りを感じずにはいられません。こうした問題の根本には、「所有の拡大」にひたすら進んできた私たちの社会全体の問題が潜んでいるように思えてなりません。私たちがほんとうに未来につながる温かな居場所を考えるならば、この福島からの今の声を、強い反省と共に聞きながら今、故郷を失った人々、行き場を失ったあらゆる生きものたちとの「共存在」に目を向けた一歩を踏み出していくしかないのではないでしょうか。根本さんがコラムの最後に書かれた「心の喪中からの復興」という言葉が心に強く響きます。本多直人

 

 

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福島からの声 2018年7月

今回の「福島からの声」は、これまでに続いて、根本洋子さんの俳句集「避難解除」の中からの掲載させて頂きます。

熊本の大地震に続いて大阪を中心とする近畿地方にも大きな地震が発生しました。

日本がいかに地震の多い国土であるのかを、改めて痛感させられた方も多いと思います。

このような地盤の不安定な場所に、今も54基もの原発が存在し、そして現在も福島で起こった凄惨な放射能災害に対し、収束する目途すら立っていないという現実があるのです。

一部の人間が利益を得るためだけに、今も再稼働を推進する動きは止まりません。

原発の再稼働は、現在の生活の便利や安楽の為に、地球という私たちにとっての大切な居場所の〈いのち〉を壊し、負の遺産を未来の子供たちに残していく暗い道でしかないのです。

今回のみうらさんの詩から感じられるのは、原発事故によって失われた居場所の〈いのち〉の姿です。

今、地震を身近に感じているときだからこそ、私たちは、この「福島からの声」に耳を傾け、苦しみや悲しみ、痛みを心に近づけて、希望ある未来への一歩を問いかけていかなくてはならないのではないでしょうか。              (編集者 本多直人)

 

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福島からの声 2018年5月

今回の「福島からの声」は、これまでに続いて、根本洋子さんの俳句集「避難解除」の中から「巡る春」の掲載させて頂きます。

東日本大震災から8年目を迎えた春。

原発事故によって故郷を奪われた多くの方々にとって、8年目を迎えた春は、どのような姿で心に映されているのでしょうか。

根本さんの俳句からは、人々の計りようのない虚しさや不条理だけでなく、人間と共に居場所を創っていた草木やいきものたち、そして大地の悲しみまでも伝わってくるように感じられるのです。居場所の失うということの大きさ、その傷の深さ。おだやかな春ゆえに、一層、深く心を締め付けてくるようです。

原発事故から未来に踏み出す一歩は、この苦悩の大地から踏み出さなくてはならないのだということ。そのことを私たち日本人は、8年目だからこそ、さらに深く心に刻みながら、復興を問いかけていかなくてはならないのです。

(編集者 本多直人)

 

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福島からの声 2018年3月

東日本大震災から七年が過ぎ、八年目の春を迎えようとしています。

津波によって大きな被害を受けた被災地は、かさ上げや防波堤の復旧工事や、高台移転事業などが進み、荒れ果てて空疎だった海辺の風景も様変わりしてあの日のかたちを留めるものも殆どと言って良いほどに見つからなくなってきています。確かに“見えるところ”では復旧、復興が進んだということも言えるでしょう。しかし、それは私たちの心の内側に映る居場所の復興と同じとは決して言うことは出来ません。「あの頃と何も変わっていない」「あの頃よりも複雑である」という“見えない”声は今になってより大きなものになってきているようにさえ感じることもしばしばです。福島の原発事故はさらに深刻です。もちろん、津波による被害に加え、除染がなかなか進まないということも一つにはあると思います。しかし、それ以上に深刻なのは、失われた居場所の未来を描くことが出来ないということではないかと思います。ほんとうの居場所は、人々が未来への希望を持って、そこに生きていくことの出来る居場所であるはずです。除染によってその空間の安全性をいくら示されても到底、納得をすることなど出来ないと思います。戻ることの出来るはずの〈いのち〉の故郷は、未だに失われたままなのです。

今回の「福島からの声」は、前回に引き続き南相馬の短歌会「あんだんて」の合同詩集(第九集)の中の根本洋子さん(これまで掲載を頂いてきたみうらひろこさんの本名です)の作品集「ふるさとの六年(むとせ)」からの短歌「我らの町」とコラム「ぬけない楔」をご紹介させて頂きます。

根本さんの心からの声は、この失われたものの本質を私たちに伝えてくれています。まだまだ何も終わっていないのです。私たちはそれが何かということをこれからも問いかけ続けていかなくてはなりません。この問いかけを更に深めていかなければ、新たな〈いのち〉の居場所を創り出す力を生み出していくことは出来ないのではないでしょうか。

本多直人

 

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福島からの声 2018年1月

今回の「福島からの声」は、前回に引き続き南相馬の短歌会「あんだんて」の合同詩集(第九集)の中の根本洋子さん(これまで掲載を頂いてきたみうらひろこさんの本名です)の作品集「ふるさとの六年(むとせ)」からの連載をさせて頂きます。

今回ご紹介させて頂く「原発棄民」という題。その響きのなんと重いことでしょうか。

原発事故によって根こそぎ失われたものは、単なる空間ではなく、そこに棲む人々の育んできた故郷という居場所の〈いのち〉であったことが、この言葉から痛いほどに心に突き刺さります。

復旧が進み、新たな年を迎えても、失われた居場所の〈いのち〉は簡単に戻ってきません。

それは居場所が人々の心の内側にあるものだからなのです。

私たちが本当に問いかけていかなくてはならない問題はそこにあるのです。本多直人

 

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